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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)133号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二号証(本願考案の実用新案出願公告公報)、甲第四号証(昭和五五年四月一六日付け手続補正書)及び甲第五号証(昭和五八年七月六日付け手続補正書)によると、従来における掘削機などの動力作業機においては、「掘削用主ブームや中間ブーム並びに掘削用バケツトの操作を手動操作レバーで行つていると共に機枠本体の左右方向旋回も手動レバーで行うものであるために運転者の正面に複数本の操作レバーが位置する構造であつた。したがつて、運転者が動力作業機を操作する場合は操作レバーを誤つて操作して不測の事故を招くことが多く、また、作業を能率的に行うことができないといつた欠点を有していた」(前記公報第一欄第二五行ないし第三三行)との知見に基づき、前記本願考案の要旨に記載の構成を採用することによつて、「機枠本体の左右旋回をシーソー型足踏ペダルにて操作して上記の欠点をなくすと共に構造が簡単で能率的に作業ができる動力作業機を提供」(同公報第一欄第三四行ないし第三七行)したものであることが認められる。

2 原告は、先願考案においては、第3のレバー4が前側足踏ペダル14、後側足踏ペダル15に一体的に付設されていて、手動の操作レバーは省略されていないのに対し、本願考案においては、シーソー型足踏ペダル10には操作レバーが一体的に付設されていない点で両者相違しているのに、審決はこの相違点を看過、誤認したと主張する。

成立に争いのない甲第六号証(先願明細書及び図面)によると、先願考案は「バツクホウやブルドーザー、クレーン車などの建設機械の操作レバーに関」(第一頁考案の詳細な説明の欄第一、第二行)するものであり、「運転席の近くに設けられた三本以上の手動操作レバーの少なくとも一本をペダルで足踏み操作可能に構成することにより、三本以上の操作レバーを手と足とで同時操作できるようにしたことを特徴とするものである」(同第二行ないし第七行)ことが認められる。

そして、右甲第六号証によると、先願明細書に、さらに次のとおりの記載があることが認められる。

「本考案の一実施例を第2図に基づき説明する。この実施例は第1図におけるブームの横平行移動用第3レバー4を次のように構成したものである。即ち、横枢支軸9に前後回転可能に枢支したボス10からレバー4を上方に、また操作腕11を下方に夫々固着延出し、この操作腕11に制御バルブ16を連動連結し、この操作腕11の中間部を二本の引張りバネ12、13で前後から引つ張り合わせることにより、レバー4を中立位置aに弾圧する。そうして、レバー4を前側位置bに操作する前側操作ペダル14と、レバー4を後側位置cに操作する後側ペダル15とを、ボス10を介してレバー4に一体に固着連結してなるものである。」(第三頁第一九行ないし第四頁第一二行)

「上記装置を第1図のバツクホウのレバー装置中のブームの横平行移動用の第3レバー4に適用した場合の操作についてのべる。バツクホウで地面を掘削しては掘削土塊を後ろ側のダンプ車に積み込む場合に、第2レバー3でバケツト及びアームを操作し、第1レバー2でブームの昇降及び旋回台を操作しながら、さらに同時にブームを横に平行移動させようとするときには、両ペダル14、15のいずれかを適宜足踏み操作して第3レバー4を操作すれば、第1レバー2及び第2レバー3を停止させることなく、第3レバー4をも同時に操作できる。」(第四頁第一三行ないし第五頁第四行)

「なお、四本の操作レバーのうちの二本のレバーを各ペダルで夫々足踏み操作可能に構成した場合には、両手両足で四本のレバーを同時に操作することができる。又、スライドレバー以外に利用してもよい。」(第五頁第五行ないし第九行)

「本考案は両手と少なくとも片方の足とで操作レバーを少なくとも三本同時に操作することができるので、(中略)持ち換えによる面倒や操作ミスがなく、レバー操作が楽にかつ正確に行なえる。」(第五頁第一〇行ないし第一七行。以上の記載については、別紙図面(2)参照)

そして、前記甲第六号証によると、先願考案の実用新案登録請求の範囲に、「三本以上の手動操作レバー2―3―4のうちの少なくとも一本のレバーに足踏ペダル14、15で連設し、手と足とで同時操作できるようにした」との記載があることが認められる。

以上認定の各記載によると、先願明細書及び図面には、バツクホウなどの建設機械の上部に旋回自在に、ブームを介して掘削用バケツトを備えた機枠本体を載置した旋回型動力作業機において、機枠本体上で運転席の近くに三本以上の手動操作レバーを設け、そのうちの少なくとも一本は、手動操作とともに足踏操作ができるよう構成したもの、実施例として、運転者の足元部に横枢支軸9を設け、これにボス10を介して手動の第3のレバー4と一体的に形成された前側操作ペダル14と後側ペダル15から成るシーソー型足踏ペダルを縦揺れ可能に装着し、三本以上の手動操作レバーのうち少なくとも三本のレバーはこれを持ち換えなくとも同時に操作し得るようにしたものが記載されているということができる。

これに対して、前記の本願考案の要旨によると、本願考案においては、シーソー型足踏ペダルは運転者の足元部においてペダル取付座に一体的に形成されているところ、前掲甲第二号証によれば、本願考案は「走行装置の上部に旋回自在に機枠本体を載置した旋回型動力作業機において、機枠本体の旋回をシーソー型足踏ペダルにて操作することを特徴とする動力作業機の旋回操作装置であるから動力作業機の機枠本体を単なる足踏操作だけで確実に行うことができ」る(本願考案の実用新案出願公告公報第二欄第三一行ないし第三七行)ことが認められる。したがつて、本願考案においては、シーソー型足踏ペダルによつて行われる旋回操作は、手動では行わない構成となつているということができる。

被告は、ある操作レバーの操作について足踏操作可能な構成を採用した場合、当該操作レバーをそのまま存置し、必要に応じて手動操作をなし得る余地を残しておくか、あるいは足踏操作のみをするものとするかの点は、単なる設計的事項にすぎないというべきであると主張する。しかし、後記5で判示するとおり、本願考案はこの相違点に基づき、当該操作レバーを残しておく構成を採用している先願考案とは異なる格別の作用効果を奏することが認められるのであるから、右の点をもつて、単なる設計的事項にすぎないということはできず、被告の右主張は理由がない。

そうすると、本願考案においては、シーソー型足踏ペダルに手動操作レバーが一体的に付設されていないのに対し、先願考案においては、前側操作ペダル14と後側ペダル15に手動の第3のレバー4が一体的に形成されている点において、本願考案と先願考案との間に相違点が存するにかかわらず、審決においては、この相違点を看過したことが明らかである。

3 原告は、本願考案と先願考案との間の相違点<1>についてした審決の認定、判断が誤りである旨主張する。

前判示のとおり、先願明細書及び図面には、運転者の足元部に横枢支軸9を設け、これにボス10を介して手動の第3のレバー4(ブームの横平行移動用)と一体的に形成された前側操作ペダル14と後側ペダル15から成るシーソー型足踏ペダルを縦揺れ可能に装着した構造が記載されており、さらに、足踏操作ができる構成を「スライドレバー以外に利用してもよい。」との記載がある。そして、前掲甲第六号証によると、先願明細書に「第1のレバー2は、左右方向5の操作により旋回台の旋回を、また前後方向6の操作がブームの昇降を夫々つかさどり」(第二頁第一〇行ないし第一三行)と記載されていることが認められるから、先願考案においては、第1のレバー2が機枠本体の旋回操作のために設けられているのであるが、前記のとおり、足踏操作ができる構成を「スライドレバー以外に利用してもよい」のであるから、先願明細書及び図面には、手動操作レバーを用いている機枠本体の旋回操作を足踏ペダルで操作するようにする構成が記載されており、機枠本体の旋回操作に足踏ペダルを利用することが開示されているものということができる。

原告は、審決が、相違点<1>は「足踏操作の対象とすべき操作レバーの単なる選択上の差異にすぎないものであつて、考案として実質的な差異は認められない。」とする理由として、「先願明細書の実用新案登録請求の範囲には、足踏操作する制御対象を限定して」いないことを挙げた点を誤りであると主張するが、先願明細書及び図面に、機枠本体の旋回操作に足踏ペダルを利用することが開示されていると認めるべきことさきに判示したとおりである以上、審決の該説示の当否については判断すべき限りでない。

また、原告は、審決が前記のとおり本願考案と先願考案との間に実質的な差異がないとする理由として、先願考案においては、「従来備えられていた他の操作レバーのいずれを足踏操作の対象としても何ら差支えな」い点を挙げたのに対して、先願考案における第1のレバー2にしても第2のレバー3にしても、左右方向と前後方向のいわば複合操作をするレバーであつて、これらを、足踏みでも操作できるというような、単一の操作しか扱えないレバーに置き換えることはできないと主張する。しかし、第1のレバー2で操作していた旋回操作以外の操作を他の手動レバーで操作するように設計することは可能であるから、原告の右主張は理由がない。

そうすると、相違点<1>について、実質的な差異は認められないとした審決の認定、判断には誤りがない。

4 原告は、本願考案と先願考案との間の相違点<2>について審決がした認定、判断、すなわち「土木建設機械等で作業用アタツチメントの作動方向と操作レバーやペダルの操作方向を感覚的に一致させることが周知慣用の手段である以上、先願明細書及び図面に開示された足踏ペダルを、本願考案のごとく左右ペダルにより横揺れ可能なものとすることは、足踏み操作の対象に機体の旋回操作を選択するならば、それに応じて、当業者が適宜実施すべき設計事項にすぎないというべきである。」との認定、判断は誤りである旨主張する。

被告は、この点に関し、ブレーキ操作ペダルの操作方向を機枠本体の左右旋回方向と方向感覚を合わせるようにすることは、本件出願当時周知のことであつたと主張し、この点に関して乙第一号証の一ないし四(技報堂出版株式会社昭和四六年一〇月一五日発行「建設機械」第六九頁ないし第七一頁)を提出しているので検討するに、成立に争いのない右乙号各証によると、その第七〇頁第一一行ないし第一九行及び第七一頁第一行ないし第四行に被告主張のとおりの記載があることが認められる。これによると、左ブレーキペダル及び右ブレーキペダルが左右に設置されているブルドーザの操縦装置が記載されている。しかし、前記の本願考案の要旨によると、本願考案においては、中立時左右略同一水平に位置する左右ペダルから成るシーソー型足踏ペダルが設けられているところ、右「建設機械」に記載の各ペダルは本願考案におけるようにシーソー型の足踏ペダルでないのみならず、運転席の位置が記載されておらず、右各ペダルを左右の足で操作することについては右記載から確認できず、むしろ右乙号証の図-2.62の記載によると、レバー類との位置関係から右各ペダルは、左足一本で操作するような構成であると認められる。

次に、被告は、操作方向と感覚的に一致させたペダル機構は操縦装置として慣用されていたことの立証として、乙第二号証の一ないし三(建設省建設研修所沼津支所昭和三七年発行「トラクタ附図」第一三頁)及び同第三号証の一ないし四(昭和三四年四月一日株式会社地人書館発行「航空学辞典」第六二八頁、第六五四頁)を提出する。成立に争いのない右乙号各証によると、前者には、運転席前方の左右に距離を置いて配置された足踏みのブレーキペダルが記載されており、後者には、ほぼ水平の面上で揺動できるようにした、方向舵を操縦するための航空機用踏棒が記載されていることが認められるが、前者は本願考案におけるようなシーソー型のものではなく、後者も土木建設機械等に関するものでないし、踏棒とはいうもののほぼ水平面での揺動を行うものであつて、本願考案におけるように足を踏んで操作するものとは異なるものである。

以上みたところによると、操縦装置において操作方向と感覚的に一致させるペダル機構自体は、本件出願当時周知のものであつたということはできるが、右乙号各証の記載によつても、土木建設機械等の技術分野において、中立時略同一水平に位置する左右ペダルから成るシーソー型足踏ペダルを横揺れ可能に装着し、操作の対象の移動方向をこのシーソー型足踏ペダルの足踏操作側と一致させて操作することが周知慣用の技術手段であつたとの事実を認めることはできないというべきである。他に、本件出願当時、右のような周知慣用の技術手段が存したことを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、右のような周知慣用の技術手段が存したことを前提として、<2>の相違点に格別の差異は認められないとした審決の認定、判断は、その余の原告の主張について判断するまでもなく誤りであるというべきである。

5 本願考案が奏する作用効果についてみるに、まず、先願考案との間の相違点<2>における本願考案の構成、すなわち、左右略水平に位置する左右ペダルが横揺れ可能に装着されているとともに、前記左右ペダルの操作側が機枠本体の旋回方向と一致するようにされているという構成が具備されたことにより、本願考案においては、前掲甲第五号証(本願考案の昭和五八年七月六日付け手続補正書)の第四頁第一五行ないし第一八行の記載によつて認められるとおり、「左右ペダルが略水平に同じ状態位置にあるので、足踏の操作がきわめて機械的にでき、運動神経のにぶい足操作に好適とし、手の操作のみに神経を集中することができる」という特段の作用効果を奏するものということができる。右作用効果は、先願考案において、旋回方向と感覚的に一致している第1のレバー2を足踏操作の対象として選択した場合に、当業者が予測し得る範囲内のことといえるとする被告の主張は採用できない。

次に、本願考案と先願考案との間に存する前記2で認定の相違点から明らかなとおり、先願考案においては、前側操作ペダル14と後側ペダル15に手動の第3のレバー4が一体的に形成されたのに対し、本願考案においては、シーソー型足踏ペダルに手動操作レバーが連設されていない。本願考案のこの構成により、前掲甲第四号証(本願考案の昭和五五年四月一六日付け手続補正書)第三頁第一四行ないし第一九行の記載によつて認められるとおり、「運転者の手元位置には操作レバーが少なく装備されるので、掘削作業が容易にでき、ペダル取付座とシーソー型足踏ペダルの構成のため、全体として構造が簡単でありながら各種の作業を能率的に行うことができる」という、先願考案にはない特段の作用効果を奏するものというべきである。運転者の手元位置に操作レバーが少ないということは操作レバーの構成が簡明であることを意味し、掘削作業を容易にするのみならず、操作レバーの誤操作の機会をも減少することは自明であり、また、足踏ペダルが取付座とシーソー型足踏ペダルから成るということは構造の簡単であることを意味するものである。叙上と異なる見方に立つて前認定の作用効果を格別のものではないとする被告の主張は採用できない。

6 そうすると、原告主張のその余の作用効果について判断するまでもなく、審決は、本願考案と先願考案との間に存する前記2で認定した相違点を看過、誤認し、相違点<2>においても両考案に格別の差異は認められないと誤つて認定、判断し、また、右各相違点に基づき本願考案の奏する特段の作用効果を看過、誤認し、ひいて、本願考案は先願明細書及び図面に実質的に記載された考案であると誤つて認定、判断したものというべきであるから、違法であつて、取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

走行装置の上部に旋回自在にブームを介して掘削用バケツトを有する機枠本体を載置した旋回型動力作業機において、機枠本体上で、且つ、運転者の足元部にペタル取付座を固着して該ペタル取付座に、一体的に形成するとともに中立時左右略同一水平に位置する左右ペタルからなるシーソー型足踏ペタルを、横揺可能に装置し、機体の旋回にもとづく前記掘削用バケツトの旋回を、該旋回方向が前記シーソー型足踏ペタルの足踏操作側と一致させて操作することを特徴とする動力作業機。

(別紙図面(1)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(1)

<省略>

別紙図面(2)

<省略>

(以下省略)

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